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療コラム

MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。

脳梗塞が診断できる様になって

執筆:画像診断本部 学術担当 青木 琴代(獣医師)

春ですね。梅が散って、桜が見頃を迎えています。
動物病院は1年で最も忙しい時期到来、逆に当社はそれほど忙しくない4月です。
 
さて、昨年より営業時間以降もご予約やお問い合わせをマンパワーで受けて参りましたが、4月より18時以降のお問い合わせにつきましてはWeb予約やchatbotに切り替えさせていただく運びとなりました。Web予約に関しては、翌日確定の連絡を致しますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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それでは今月は「小脳梗塞による散瞳」に関する報告をご紹介します。
神経局在診断の新しい報告は貴重です、感動しました。
 
実は以前から疑問に思っていたことがありました。
MRI検査と経過から 小脳梗塞 と診断した症例で、主訴の一つに瞳孔不同が見られることがありました。実際に検査当日に神経学検査を行っても消失していることが多く、一過性の瞳孔不同?縮瞳?散瞳?なんだろうかと思っていました。

 

そうしたところ、今回ご紹介する報告にその答えが見つかりました!

文献紹介

2024年8月、イギリスのCecilia-Gabriella Danciuによる小脳梗塞で現れる神経症状についての報告です。
 
“Mydriasis associated with ischemic cerebrovascular infarct affecting the ipsilateral cerebellar interposital nucleus in 2 dogs.”
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/vru.13278
 
犬2例における同側の小脳中位核を含む虚血性脳梗塞に関連した散瞳

◆◇ 症例(A):雑種犬(10歳オス)◇◆
 ●主訴:急性発症の運動失調、その直前に嘔吐
 ● 神経所見:
  ・左散瞳、左のPLR(対光反射)不完全
  ・右捻転傾斜、左急速相の回転性眼振
  ・左前後肢の姿勢反応低下
 
◆◇ 症例(B):グレイハウンド(8歳メス)◇◆
 ●主訴:急性の起立不能、左前後肢の負重低下
 ●神経所見:
  ・左散瞳、PLR正常
  ・左の瞬目反応消失(視覚は正常)
  ・右捻転傾斜、右腹側斜視
  ・左前後肢の姿勢反応低下


 
症例はいずれも前庭症状(逆向性)とともに、一過性の片側性散瞳
MRIでは、左前小脳動脈領域に一致した急性期の脳梗塞を示唆

 

 

さて話を進める前に瞳孔支配についておさらいです。
 
瞳孔の大きさは、自律神経系によって調節されています。

・ 副交感神経:動眼神経経由で瞳孔括約筋を収縮 → 縮瞳
・ 交感神経:瞳孔散大筋を収縮 → 散瞳
 

 
散瞳を伴う瞳孔不同は、眼疾患、神経疾患、薬剤投与によって起こり、神経疾患では動眼神経麻痺や脳幹の病変を疑うことが多いです。

*紹介論文より改変
 
今回ご紹介するCecilia-Gabriella Danciuの報告では、1955〜1978年に発表された3つの論文が引用されていました。これら論文では動物実験(猫)を行い、小脳白質の深部にある3つの核※1のうち、中位核に障害を起こしたところ、以下の症状が現れたそうです。
※1 歯状核/中位核/室頂核 の3つ
  中位核を栓状核/球状核に分けて4つに分類する場合もある
 
・同側散瞳
・同側PLR不完全
・同側眼瞼裂の拡大、対側第三眼瞼突出
 
この結果から、小脳中位核はなんらかの形で瞳孔支配に関与していることが示唆されました。
 

〈画像出典:Andre Jaggy/Simon R. Platt 監訳者:長谷川大輔 図解 小動物神経病学 2011年 株式会社インターズー より

これを踏まえて、今回ご紹介の2症例を振り返りましょう。
 
① 眼疾患や薬剤性なし
② MRIで動眼神経路や視蓋-中脳領域に異常なし
③ 小脳左側(中位核領域)に急性梗塞所見あり!
2症例とも小脳病変は小脳中位核が含まれており、過去の実験症例で確認されていた場所と一致。
 
まとめると瞳孔不同や対光反射の異常は小脳病変でも起こるということですね。
知らなかったです。凄い!!
 
 
<出典:Journal of Veterinary Internal Medicine Volume38, Issue5 September/October 2024 Pages 2669-2674
Wiley Online Library https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jvim.17176

キャミック症例紹介

<症例>
ボーダー・コリー 13歳 未避妊雌 18kg
 
<主訴>
・2日前オーナーが帰宅するとふらつき 右前後肢の動きがおかしい
・動物病院にて瞳孔不同 右眼の頭位変換性腹側斜視 左捻転斜頸
・MRI撮影時には神経症状は概ね正常

MRI所見

小脳右前小脳動脈領域にT2WI/FLAIR:高信号、DWI:高信号、ADC:一部低信号(部分的な拡散抑制を示唆)
→急性期小脳梗塞を強く疑う所見
 
この症例もやっぱり小脳中位核を含んでいます、瞳孔不同(右眼散瞳)があったに違いない!!
身近な知識ほどアップデートされると感動しますね。