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療コラム

MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。

M.シュナウザーの脊髄疾患について(梗塞VS椎間板ヘルニア)

執筆:画像診断本部 副本部長 兼 城南センター長 田頭 偉子(獣医師)

M.シュナウザーの脊髄疾患について

(梗塞VS椎間板ヘルニア)

今回のコラムは、私自身も飼っており大好きな犬種であるM.シュナウザーについてです。

 

M.シュナウザーに多い疾患というと、何が浮かびますでしょうか?

高脂血症・胆嚢粘液嚢腫・急性膵炎・尿石症etc.様々な疾患が挙げられると思います。

 

その中でも、画像診断(MRI検査)と関連の深い疾患として、脊髄梗塞があります。

 

脊髄梗塞というと比較的若い非軟骨栄養性犬種の大型犬をイメージされる先生も多いかもしれません。実際に、過去の報告では脊髄梗塞を発症した症例中、大型犬/超大型犬を併せた発生の割合が42.5%、小型犬の割合が24.2%だったそうです。近年では小型犬や猫での発生も報告があり、動物種や犬種を問わず発生する疾患だと認識されています。

 

同じ報告の中で、脊髄梗塞を発症した小型犬のうち約58%がM.シュナウザーだったと報告がある位、実は脊髄梗塞の発症が多い犬種といえます。

 

実際、我が家のM.シュナウザーも急性の後肢不全麻痺を呈し、MRI検査を実施して脊髄梗塞と診断され、5日程で改善したという経験があります。

 

MRI検査を行い、検査後、脊髄梗塞でしたとお伝えすると、椎間板ヘルニアだと思っていたと驚かれるケースもあります。もちろん、脊髄梗塞だけでは無く椎間板ヘルニアだったケースも一定数あります。脊髄梗塞の明確な発症機序は不明とされていますが、散歩や運動中に発症することが多く、また発症時には痛みを伴うケースもあったりと、発症の経緯や症状は椎間板ヘルニアと似ている部分も多く、症状から判断するのは難しい場合もあります。

 

そこで、2021年〜2023年にキャミックで脊髄疾患を疑いMRI検査を実施したM.シュナウザーについて振り返ってみました。

統計

大きく分けると、

○脊髄梗塞 28症例
○椎間板ヘルニア 50症例
○その他(腫瘍/炎症/外傷/特所見なし等) 12症例  でした。

 

一見すると、椎間板ヘルニア症例の方が多いのですが

脊髄梗塞の症例は、発症の平均年齢6.4歳(中央値5.5歳)と比較的若く、他犬種も含めての数値ですが、報告にある発症中央値5歳とほぼ一致していました。

 

発症から検査に至るまでの日数は、

 

とこの様な違いが出ていました。脊髄梗塞では8日以降に検査を行うケースが少ないですが、これは脊髄梗塞が急性の虚血性脊髄障害(血管障害性疾患)であることや比較的予後が良好なケースが多いことに起因していると思われます(発症後、経過をみていたら徐々に良くなって検査に至らないケース)。

 

一方、椎間板ヘルニアは発症後8日以降での検査が多いのは、高齢の非軟骨栄養性犬種で慢性的な脊髄圧迫を引き起こすとされる Hansen II型の椎間板ヘルニアが多く認められている事に起因していると考えられました。

 

脊髄梗塞と診断した症例を発症部位ごとに分類すると、

という結果でした。これは、報告によって異なる部分がありますが、C6〜T2髄節およびT3〜L3髄節に多いという報告と概ね一致していました。

 

▼脊髄梗塞については過去の記事をご覧ください。

MRI基礎知識〜脊髄梗塞〜

比較的若いM.シュナウザーが急性の麻痺または不全麻痺を発症した場合、是非とも鑑別疾患の上位に加えて頂きたいです。

 

脊髄梗塞であった場合、外科手術の必要性は無く、比較的早期からの理学療法(リハビリテーション)を行うのが良いとされています。また、発症時の重症度にもよりますが、一般的に歩行回復への予後は良好とされていています。報告により、異なる部分はありますが、発症から歩行回復までの期間は概ね3日〜12週間程と言われています。

 

MRI検査は、脊髄梗塞を診断する上でかなり有効な手段となりますので、是非、診断ツールの一つとして、活用して頂けたら幸いです。

症例紹介

〈症例〉
M.シュナウザー 避妊雌 5歳 6.6kg

 

<主訴>

・突然の右後肢破行と姿勢反応低下  疼痛なし

・発症直後よりは症状が改善傾向にはあるが、症状が続いているため、発症から8日目に胸腰部MRI検査を実施

 

<神経学的検査>
・右後肢単肢の不全麻痺

 

<画像所見>
・T9〜L1椎体領域の脊髄実質・右側寄りにびまん性病変あり
・脊髄梗塞疑い

 

<経過>

・検査から約3週間後には、日常生活にほぼ支障がない位に改善