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療コラム

MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。

キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルの口蓋扁桃の扁平上皮癌

執筆:城南副センター長 原 香織(獣医師)

“キャバリア”や“キャバ“の呼び名で親しまれる、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、まんまるな目と大きな垂れ耳が特徴の小型犬です。

 

キャバリアは、よく似た犬種のキング・チャールズ・スパニエルという犬種の変種で、イギリス王室のチャールズ1世・2世が可愛がっていたことが、名前の由来だそうです。ちなみに、キャバリアという言葉は騎士(ナイト)という意味があり、チャールズ1世を慕う人たちのことを言っていたようです。

キャバリアの好発疾患

キャバリアは僧帽弁閉鎖不全症や巨大血小板性血小板減少症、キアリ様奇形/脊髄空洞症、原発性滲出性中耳炎PSOM、免疫介在性/先天性乾性角結膜炎KCSなど、特徴的な疾患が多く報告されている犬種です。

 

また、キャバリアなどのスパニエル系は原発性扁桃腺腫瘍が発生しやすいという報告もあります。ちなみにジャーマン・シェパード・ドッグやコリー犬種でも発生が多いそうです。

 

今回は口蓋扁桃の扁平上皮癌についてお伝えしようと思います。

口蓋扁桃の扁平上皮癌

 

口腔内腫瘍の中、口蓋扁桃に発生する腫瘍は稀ですが、口蓋扁桃に発生する悪性腫瘍の中で最も発生率が高いものが扁平上皮癌で、次いでリンパ腫やメラノーマが挙げられます。

 

扁平上皮癌の中でも歯肉や口唇、舌、口蓋などの口腔内に発生したものは局所浸潤性・骨浸潤性が強い腫瘍として知られていますが、遠隔転移は比較的少ない傾向です。しかし、口蓋扁桃に発生した扁平上皮癌は例外で、リンパ節や肺への転移率が高く、2023年の報告では転移率が73%と驚きの結果でした。これを受けて、扁平上皮癌は扁桃Canine tonsillar squamous cell carcinoma (TSCC)か、非扁桃 non-tonsillar oral SCC (NTSCC)かに分けて検討されています。

 

扁桃扁平上皮癌(TSCC)の症状には、咳やえずき、嚥下障害や食欲不振などがありますが、無症候性のことも多いです。症状がない場合、最初に気付くのが転移により腫大したリンパ節で「頚部のしこり」を主訴に来院されることがあります。当社でも「甲状腺癌疑い」でご紹介いただくことが多いです。

口蓋扁桃ってどこ?

口蓋扁桃は咽頭口部に存在する左右1対のリンパ節です。舌根と軟口蓋の間の咽頭壁の窪みに見られ、細長い形をしています。

個人的には「MRIの方が見える」と思っています。

 

咽頭領域の構造は密で、口蓋扁桃と周囲の構造を区別することが難しい領域です。

その為、CT検査時は開口した状態で、造影剤を使用しています。

 

症例紹介

 

〈症例〉
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
7歳 未避妊雌 8.0kg

 

<主訴>
頸部のしこりを発見し紹介病院を受診

CT画像所見

・左側口蓋扁桃は大きさ約22×11×11mm(体軸×横軸×高さ)に腫大している。造影増強も不均一であり、腫瘍性病変を疑う。右側口蓋扁桃の厚さは約5mmである。

 

・左側内側咽頭後リンパ節は大きさ約48×26×29mmと顕著に腫大し塊状となる。造影増強も不均一であり、上記病変との類似性も見られることから、リンパ節転移を疑う。

 

右側内側咽頭後リンパ節も厚さ:㊨7.9mm]と腫大傾向である。
(下顎リンパ節も軽度腫大を認めましたが、肺野に転移を疑う所見は認めませんでした。)

<病理検査結果>

扁平上皮癌     

今回は、稀な疾患を取り上げましたが、局所浸潤性が高いことや肺転移がみられることからも決して見逃すことができない疾患です。怪しいなと思った際には検査をお勧めします。

ちなみに、犬の頸部腫瘤の鑑別には、甲状腺腫瘍、唾液腺嚢胞、唾液腺腫瘍、頸動脈小体腫瘍、リンパ腫などが挙げられますが微妙に位置が異なりますので意識してみて下さい。