医療コラム
MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。
シー・ズーの門脈体循環シャント
北京語で「小さなライオン(獅子)」を意味するシー・ズーは、何世紀にも渡って中国の皇帝達に愛されてきた犬として知られています。
その起源は古く千年以上前に遡り、当時チベットから贈られたラサ・アプソやペキニーズなどを掛け合わせて生まれた品種といわれています。
今の日本では、テディベアカットなど短く刈り揃えたスタイルが主流ですが、本来長毛種である彼らは、そのシルクのような毛並みを活かして、皇帝の足を温めていたのだとか。
さて、そんなシー・ズーに多い病気はたくさんあります。多くの眼科疾患、脂漏症やアトピー性皮膚炎・外耳炎などの皮膚疾患、そして心疾患。特に眼科疾患は500頭1,000眼を調査したところ964眼に異常があったと言う驚異的な報告が今年(2024年)出ています。
しかし眼も皮膚も心臓もCTやMRIとはあまり縁のない疾患ですので、これらを主訴として検査に来る症例はほぼいません。CT依頼が多いのは、肝臓腫瘤・副腎腫瘤・鼻腔病変・外耳道の異常ですが、意外と見つかってくるのが今回取り上げる「門脈体循環シャント」なのです!
門脈体循環シャントとは、門脈と呼ばれる血管が途中で枝分かれしたために、消化管などからの血液が肝臓を通らずに静脈へと流れこんでしまう病気です。血液検査や尿検査などで異常が発見され、CT検査で異常血管を見つけて診断します。
詳しくは以下のページもご覧下さい。
▽ペットの病気と検査 (門脈体循環シャント)
統計
門脈体循環シャント(肝外シャント)と診断されるのはほとんどが小型犬ですが、その中でも特定の犬種に発生が多く、遺伝的要素があると言われています。
2021〜2023年の3年間にキャミックでCT検査を行った犬は4,128頭で、そのうち門脈体循環シャントと診断されたのは243頭(5.9%)でした。
この243頭の品種内訳と門脈体循環シャントと診断した割合を表にしましたところ、1位はシー・ズーでした。
また、門脈体循環シャントは若齢の病気というイメージがありますが、シャントの種類によっては比較的高齢まで無症状の場合があります。
今年、門脈体循環シャントに関する大規模/世界的な報告があり、その報告によると診断時の平均年齢は3.9歳だったそうですが、キャミックでは平均6.9歳でした。ただし、犬種によって差があり、ヨークシャー・テリアとマルチーズは当社でも4歳と若齢だったのですが、今回の主役シー・ズーは8.8歳と平均よりも高齢でした。
なぜ?
シー・ズーとヨークシャー・テリアを比べてみました。
ヨークシャー・テリアの門脈体循環シャントは6種類、最も多いのが左胃静脈–横隔静脈シャント(50%)という、先ほど記した大規模な報告でも最も多い短絡でした。次いで左胃静脈–奇静脈・右胃静脈–後大静脈・脾静脈–後大静脈シャント(各13%)が続きます。
それに対し、シー・ズーは左胃静脈−横隔静脈シャントが非常に多く82%を占めていました(他左胃静脈–奇静脈・右胃静脈–後大静脈・左胃静脈–後大静脈シャントが各6%)。
左胃静脈−横隔静脈シャントは横隔膜〜胃噴門に沿ったシャント血管であり、呼吸相や胃の拡張によりシャント血管径に変動があると推察されています。
門脈体循環シャントを持つ症例にとって、食後は特に重大な意味を持ちますが、この短絡の場合は、胃の拡張によりシャント血管が圧迫されて、血流が少なくなる可能性があるというわけです。
確かに、今回シー・ズーの門脈体循環シャントは65%が他の疾患の精査で偶発的に見つかっていました(ヨークシャー・テリアの偶発発見は25%)。
なるほど、シー・ズー門脈体循環シャントの診断年齢が高いのは納得ですね。
症例紹介
〈症例〉
シー・ズー 去勢雄 10歳11ヶ月 6.9kg
<主訴>
1週間ほど前から夜中に徘徊したり、ふらつきが現れたりして、徐々に悪化した。一時は意識障害もあった。
MRI画像所見
大脳深部白質や視床/中脳/延髄に左右対称にT2強調画像/FLAIR画像で淡い高信号所見を認める→代謝性疾患の可能性を疑う
【MR画像】横断像 T2強調画像
CT画像所見
左胃静脈–横隔静脈シャントを認める。シャント血管径は4.8mmと太かった。肝臓は同年齢同犬種の症例と比較して小さく、肝門部の門脈血管径も5.0mmと細かったが、肝内門脈枝は第3次枝まで確認可能であった。腎臓には結石が認められた。
【CT画像】横断像 造影後 門脈相
【3D画像】腹側観
【3D画像】左側観
2024年にアメリカ・イギリス・日本・オーストラリアの研究者らが共同で発表した論文では、先天性肝外門脈体循環シャントの大規模な回顧的研究が行われ、やはりシー・ズーでは高齢で門脈体循環シャントが見つかることが多いと発表されました。また、門脈体循環シャントの命名法についても新たな提案がされており、これから少し変わっていくかもしれません。