医療コラム
MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。
MRIから読み解く犬のMUOの予後
6月末に北海道・札幌で開催された第51回獣医神経病学会で口頭発表を行いました。
人前での発表は卒業論文以来。しかも最終演者だったため、自分の順番が来るまでの2日間はずっと落ち着かず、なかなか緊張の抜けない学会となりましたが、おかげさまで無事に発表を終えることができました。
今回はその内容についてご報告します。



なお、本研究の予後調査にご協力いただいた病院様には、この場を借りて心より御礼申し上げます。
MRIから読み解く犬のMUOの予後
― 初回MRIでわかること ―
※「獣医神経病学会2026」発表より引用/編集
起源不明の髄膜脳脊髄炎(MUO)は、犬で比較的多くみられる非感染性の炎症性中枢神経疾患です。これまで犬の脳炎は、壊死性髄膜脳炎(NME)、壊死性白質脳炎(NLE)、肉芽腫性髄膜脳脊髄炎(GME)などに細分化されていました。しかし、これらを厳密に区別するには病理組織学的検査が必要であり、生前に確定診断することは容易ではありません。そのため現在では、画像検査や脳脊髄液検査などをもとに、包括的に「起源不明の髄膜脳脊髄炎(MUO)」と呼ぶことが一般的になっています。
MUOには自己免疫の異常が関与すると考えられていますが、その経過はさまざまで、治療によく反応して長く生活できる犬もいれば、診断後まもなく重篤な状態になる犬もいます。そのため、診断時に「その後どのような経過をたどるのか」を予測することは、獣医師にとっても飼い主にとっても重要な課題です。
MRIでは、病変がどこにあるのかだけでなく、病変の広がりや信号強度、造影増強のパターンなど、多くの情報を得ることができます。私たちは、これらのMRI所見が診断だけでなく予後の予測にも役立つのではないかと考え、247頭のMUO症例を対象に初回MRI所見と予後との関係を調べました。
その結果、予後との関連が強いMRI所見は一つではなく、診断からの時期によって異なることが分かりました。
まず、診断から30日以内の早期では、脳圧亢進を示すMRI所見が最も重要でした。これは脳浮腫や脳ヘルニアなど、急性期の重症度を反映しているためと考えられます。一方で、治療が奏効すれば改善する可能性もあり、この所見だけで長期予後を判断することはできません。

続いて、30日以降では、大脳皮質に病変がある犬で予後が悪くなる傾向がみられました。炎症後の瘢痕化や神経回路の再構築などによる影響が持続した可能性があります。皮質病変のある犬では、約76%で発作が認められ、脳炎後てんかんとの関連が示唆されました。

さらに、長期では、「病変がどれだけ連続して広がっているか」が予後と関連していました。つまり、大きな連続病変があるほど、長期的な経過に影響する可能性があります。

これらの結果から、初回MRIでは病変の有無だけでなく、「どこに病変があるのか」と「どのように広がっているのか」をあわせて評価することが重要であると考えられます。

また、MRI所見の意味は時間とともに変化するため、それに応じて診療の重点も変わります。診断直後は脳圧亢進の有無を評価し、必要に応じて積極的な脳圧管理を行うことが重要です。急性期を乗り越えた後は、皮質病変を有する症例では発作管理を意識した経過観察が求められます。さらに、病変が広範囲に連続して広がる症例では、長期的な経過を見据えた継続的な管理が重要になると考えられます。

初回MRIから得られる情報を時間軸に沿って読み解くことで、より適切な治療方針の決定や飼い主への説明につながることが期待されます。
💡ちなみに、"パグ脳炎"や"ヨーキー脳炎"って?
以前はNMEを「パグ脳炎」、NLEを「ヨーキー脳炎」など、犬種をつけて呼ぶこともありましたが、MUOは特定の犬種だけの病気ではないことが分かっています。
今回の247症例でも、多くは小型犬で、最も多かった犬種はチワワでした。一方で、特定の犬種だけに集中することはなく、MUOは幅広い小型犬で発症していました。
1位 チワワ 68頭
2位 T.プードル 38頭
3位 雑種 33頭
4位 ヨークシャー・テリア 21頭
5位 パグ 19頭
6位 マルチーズ 16頭
7位 ポメラニアン、F.ブルドッグ 10頭
9位 M.ダックスフンド 8頭
10位 ボストン・テリア、ビションフリーゼ、シーズー、パピヨン 4頭
