医療コラム
MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。
MRI基礎知識〜脊髄梗塞〜
前回、椎間板ヘルニアについて紹介させていただきましたが、今回は急性の脊髄障害で遭遇する機会の多い脊髄梗塞について紹介させていただきます。
脊髄の血管分布を以下に示します。
脊髄梗塞は脊髄の血管が障害されて起こり、線維軟骨塞栓症(fibrocartilaginous embolism:FCE)が最も一般的な原因として知られています。原因としては他にも血栓症や腫瘍による塞栓、寄生虫等の血管迷入がありますが稀な事象です。
犬の場合若齢〜中齢の発症が多く、猫の場合は中齢〜高齢で多いとされています。
症状は梗塞を起こした部位と範囲で変わり、単肢や片側前後肢の跛行、不全麻痺や数時間から1日で麻痺へ進行するケース、発症直後から麻痺となるケースと様々です。
好発部位は報告によって異なりますが、脊髄第2分節(C6-T2)、3分節(T3-L3)、4分節(L4-S3)が多く、猫では頚部での発生が多いと報告されています。
MRIでは、T2強調画像で片側および両側性の斑状やびまん性の高信号域が見られます。この信号強度変化は梗塞巣に浮腫を含んでいることもあり、実際の梗塞巣より広範囲に見られることもあります。また、T1強調画像では周囲との信号強度変化はあまり顕著ではありません。ガドリニウムでの造影増強は様々であまり典型例はありません。
急性の梗塞を起こしている場合には拡散強調画像が有用であることがあります。
急性期(発症〜7日)では、拡散強調画像で高信号、ADC-mapで拡散低下を示す(周囲より黒い)所見が見られた場合には梗塞である可能性が高くなります。
もちろん、犬猫の脊髄は細く対象が小さいことから拡散強調画像での評価が難しいこともありますので、症状や経過と総合的に評価することは基本事項として考えなければなりません。
拡散強調画像については前投稿のものも参考にしてみてください。
(拡散強調画像の回 https://camic.jp/column/18_202212/)。
症例紹介
症例1〜頚部脊髄梗塞〜
〈症例〉
雑種猫 去勢雄 11歳 5.44kg
〈主訴〉
1週間前、急性の左前肢不全麻痺となり、左片側不全麻痺となった。
同日夕方から四肢の不全麻痺へと進行し、排尿障害を呈するようになった。
〈神経学的検査〉
姿勢:横臥
歩様:四肢不全麻痺
姿勢反応:四肢低下(特に左側で顕著)
脊髄反射:左橈側手根伸筋反射 低下
→意識状態および脳神経検査にて異常がないことから脊髄第1分節および第2分節の病変が疑われた。
<画像所見(発症から7日後に撮像)>
C5〜T5椎体レベルの脊髄はT2強調画像で高信号を示している。C6-〜T1椎体レベルでは、信号強度変化の左右差、造影増強があり、拡散強調画像で高信号、ADC-mapで拡散低下が示唆されることから急性期の脊髄梗塞が疑われた(この症例は梗塞に併せて浮腫の併発もあると考えられました)。
<予後>
検査後4ヶ月では四肢の動きはよくなったようだが、完全に回復は見られず、排尿障害も残存しているとのこと。
症例紹介
症例2〜腰部脊髄梗塞〜
〈症例〉
甲斐犬 未去勢雄 8歳 17.6kg
<主訴>
突然鳴いた後から両後肢不全麻痺となった
<神経学的検査>
姿勢:座位
歩様:両後肢不全麻痺
姿勢反応:両側後肢低下〜消失(左右差なし)
脊髄反射:両側膝蓋腱反射 正常〜亢進 両側後肢引っ込め反射 消失〜低下
→脊髄第3分節および第4分節の病変が疑われた。
<画像所見(発症から約18時間後に撮像)>
L4椎体レベルの脊髄左側にT2強調画像で高信号を示し、僅かに増強効果を示す所見が見られる。
拡散強調画像で高信号、ADC-mapで拡散低下が示唆されることから急性期の脊髄梗塞が疑われた。
<予後>
無治療にて経過観察し、発症後10日でふらつきながらも歩行可能になった。
その後、左後肢の姿勢反応低下はやや残るものの通常通りの歩様になった。