医療コラム
MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。
MRI基礎知識〜髄膜脊髄炎〜
脊髄の炎症性疾患は、その原因によって、感染性と非感染性に大別されます。
猫では感染性が、犬では非感染性が多いと言われています。
非感染性髄膜脊髄炎のはっきりとした発生機序や原因はいまだ明らかになっていませんが、免疫介在性疾患であると考えられています。
感染性疾患 | ・犬ジステンパーウイルス性脊髄炎、
・細菌性髄膜脊髄炎、真菌性髄膜脳炎、 ・猫伝染性腹膜炎ウイルス性髄膜脊髄炎 など |
非感染性疾患 | ・MUO(起源不明髄膜脳脊髄炎)
・SRMA(ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎)、 ・特発性好酸球性髄膜脳脊髄炎 など |
また、炎症が起きている部位によって分類すると、髄膜炎・脊髄炎・動脈炎があります。
髄膜炎と脊髄炎は併発することも多く明確な区別は困難です。一方、動脈炎は脊髄くも膜下腔を走行する血管に起きた炎症が、次第に周囲へと波及していきます。
いずれも確定診断としては生検・病理検査が必須ですが、臨床的な診断方法としては、MRI撮影および脳脊髄液検査が有用であると言われています。
病変がびまん性の広がりを示したり、はっきりとした神経学的異常が現れなかったりするため、神経学的検査による病変部位の特定が難しい場合もあります。
検査部位に関して迷われた際はお電話にてご相談ください。
症例紹介
症例1〜SRMA(ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎)〜
〈症例〉
イタリアン・グレーハウンド 6ヶ月齢 未去勢雄
〈主訴〉
10日前からどこか痛がって元気がない様子があり、四肢不全麻痺へ進行。NSAIDSに対する治療反応に乏しい。発熱あり。
〈神経学的検査〉
姿勢 横臥
姿勢反応 四肢で消失
脊髄反射 正常
<画像所見>
C3〜5椎体レベルの髄膜領域に病変を認める。病変はT2強調画像でやや低〜高信号、T1強調画像で等信号を呈する。造影剤による増強を認め、脊髄実質を全周性に圧迫する。
<脳脊髄液検査>
脳脊髄液中に、145.2個/μlと顕著な細胞数の増加を認めた。細胞成分は、好中球主体で単核球も確認された。
<予後>
ステロイドによる治療を開始し、1週間で症状が改善を示し、発症3ヶ月後の現在も治療を継続中。
<担当獣医師コメント>
SRMA(ステロイド反応性髄膜炎・動脈炎)は、頸部脊髄での動脈炎および髄膜脊髄炎を主体とする病気で、ステロイド治療に反応が良いことから自己免疫性の疾患と考えられています。
頸部の痛みや神経症状と併せて、「若齢発症」「発熱」「CRP上昇」「脳脊髄液中での好中球の増加」などが特徴的で、以前はビーグルやバーニーズマウンテンドッグにみられるとされていましたが、その他の犬種でも報告されています。
SRMAでは頚部脊髄に限らず全身で壊死性の動脈炎がおこると言われており、本症例では下顎骨周囲や咽頭部にも炎症所見を認めました。
症例紹介
症例2〜FIP(猫伝染性腹膜炎ウイルス性脳髄膜炎)〜
〈症例〉
ラグドール 8ヶ月齢 未避妊雌
<主訴>
1週間前からジャンプに失敗する・転ぶ・ふらつきなどの運動失調
<神経学的検査>
姿勢 正常
姿勢反応 正常
脊髄反射 正常
<画像所見>
頸髄の髄膜はびまん性に造影後T1強調画像で高信号を呈し、造影増強を疑う。
<脳脊髄液検査>
脳脊髄液中に、400個/μlと顕著な細胞数の増加を認めた。細胞成分は、好中球主体で小単核球やマクロファージが確認された。
また後日、PCR検査にてコロナウイルスが検出され、FIP(猫伝染性腹膜炎)と診断された。
<予後>
内科治療にて良化した。
<担当獣医師コメント>
FIP感染によるウイルス性髄膜脳脊髄炎は、脈絡叢や上衣層で炎症を起こすことが多いですが、本症例のように髄膜炎が主体となることもあります。
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