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療コラム

MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。

柴犬の後肢麻痺/後肢不全麻痺

執筆:画像診断本部 大西 ゆみ(獣医師)

犬が後肢起立不可で来院したら、第一に何の疾患を疑いますか?

もちろん、犬種や年齢、経過によって違いますよね。

 

もし、ミニチュア・ダックスフント(Mダックス)/中年齢/急発症なら、断然ハンセンI型の椎間板ヘルニアを疑うと思います。実際、今年2023年10月までの10ヶ月間に、キャミックで後肢麻痺/不全麻痺の症状で胸腰部のMRI検査した犬は約400頭、その約半数がMダックスでした。そしてなんと、その約98%の症例において、椎間板ヘルニアが責任病変でした。

 

柴犬だったら、どうでしょう。

今年、後肢不全麻痺/麻痺で胸腰部MRI検査に来た柴犬は6症例、うち、椎間板ヘルニアは2症例、脊柱管内腫瘍(おそらく神経鞘腫)1症例、そしてあと3症例は、なんと大動脈血栓症でした。

 

では、大動脈血栓症は、どのような犬種で多いのでしょうか?キャミックでは2020年から2023年までの約4年間で、22症例の大動脈血栓症を診断しております。その内、8例が柴犬で最も多く、2番目は雑種(MD)3例、3番目はMダックス、ポメラニアンが各2例、他は、ボストンテリア、ミニチュアシュナウザー、ワイヤーフォックステリア、ビーグル、ジャックラッセル、シェトランドシープドッグ、ペキニーズがそれぞれ1例ずつでした。

 

柴犬症例では13〜16歳といずれも高齢です。

 

 

そして多くの症例で激しい疼痛を伴っています。麻痺がなく、痛みだけを呈する症例もいました。

 

これらの症例は、全て、脊髄疾患の疑いでMRI検査を受けにキャミックに来院しました。MRI検査で脊髄に責任病変が見つからず、CT造影検査に進んで大動脈血栓症を確定しました。犬では基礎疾患が特になく、特発性であることが多いので、しばしば脊髄疾患と間違われます。特に柴犬では、今回の8例において、5例で基礎疾患がありませんでした。

 

一方、柴犬以外の犬種では、14例中 半数近くの6例がクッシング症候群でした。

 

 

後肢不全麻痺/麻痺や腰痛/破行などを呈する高齢の柴犬が来院したら、鑑別診断リストの一番上に、大動脈血栓症を持ってきてください。

 

そして、神経学的検査に加えて、四肢の温感/冷感、股動脈圧、疼痛の有無などを触診してみてください。通常の血液検査以外に是非、CPKとDダイマーを加えてください。そして疑わしかったら、超音波検査で、大動脈の血流を確認してみてください。麻酔が必要なリスキーな検査の前に、診断できるかもしれません。

 

あとは、基礎疾患が除外できれば(クッシング症候群、何らかの腫瘍性疾患、免疫介在性疾患、心疾患、たんぱく漏出性疾患、糖尿病、ステロイド投与など)、予後は必ずしも悪くないようです。

症例紹介

大動脈血栓症

【症例】
柴犬 13歳 避妊雌 体重12.0kg

 

【主訴】
急性の腰痛、後肢不全麻痺

 

【神経学検査】
姿勢:座位
歩様:起立/歩行不可
姿勢反応:前肢正常 後肢低下(CP:0、踏み直り/跳び直り:1)
脊髄反射:会陰反射やや低下
触診:左右後肢端やや冷感 大腿部は温感あるも股圧触知わずか

胸腰部MR画像所見

脊髄に、圧迫や梗塞/腫瘍など、明らかな病変なし。CT検査に進んだ。

 

腹部CT画像所見

L4椎体より尾側領域の大動脈/外腸骨動脈~大腿動脈/内腸骨動脈に、血栓/塞栓症を疑う造影欠損像を認めた【赤矢頭】。一部には、造影剤の流入を認め、不完全閉塞であった。

腹部臓器に特異所見は認めなかった。

予後

基礎疾患がないか確認し、甲状腺機能、副腎機能とも正常であった。

tPA投与・ヘパリン・サプリメント等の投与、症状は徐々に改善。

2週間後には起立可、3週間後には歩行可に、2ヶ月後には走れるようになった。

後肢温感あり。肢端はやや過敏である。

 

▼ ▼ ▼ 2ヶ月後 ▼ ▼ ▼

2ヶ月後のCT画像所見

血栓は、残存するも【青矢頭】、前回より一部縮小。内腸骨動脈は、前回より多くの血流を認める【桃色矢頭】。内腸骨動脈から大腿部に向かって、蛇行/分岐する細い動脈が多数認められ【桃色小矢頭】、側副循環や微小血管の怒張が示唆された。