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療コラム

MRI/CT検査・画像診断に関して、日常の診察や検査ご予約時にお役立ていただける医療情報をお届けします。

マンチカンのFIP

執筆:画像診断本部 今井 光(獣医師)

今回はマンチカンを取り上げたいと思います。

 

マンチカンという名前は一説によると『オズの魔法使い』に出てくる小人の『マンチキン』に由来しているそうで、最大の特徴は、なんといってもその短い手足です。

 

マンチカンは特定の猫種を掛け合わせた品種ではなく、突然変異によって自然発生した猫種だそうです。短足の猫の存在は最初に1944年イギリスで報告され、その後ロシアやアメリカでも報告されましたが、マンチカンと呼ぶ品種の基礎となったのは1983年にアメリカのルイジアナ州で発見された足の短い妊娠した雌猫だと言われています。この雌猫は『ブラックベリー』と名付けられ、このコが産んだ子猫も短足であったことから優性遺伝であることが証明され、本格的に交配がスタート・品種として確立されたそうです。そして2020年から短足に関連する遺伝子についても解明されてきました。

 

近年、非常に人気の高い猫種ですが、当社での検査件数も年々増加しています。また、日本ではマンチカンと他の純血種を交配した、ミヌエットやキンカローなども人気を博しています。

 

マンチカンには確立された病気はありませんが、特徴的な骨格から遺伝的な異常を疑い複数の猫種と交配を繰り返した背景があります。その為、多発性嚢胞腎、肥大型心筋症、網膜異形成など他の純血種で多いとされている疾患の発生が報告されています。また、関節炎や骨格異常もやや多い印象があります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)もまた純血種において比較的発生頻度が高いと報告がある疾患であり、今回マンチカンのFIPについて調べることにしました。

 

まずは当社に依頼の多い神経型FIP(CNS-FIP)についてまとめました

2014年〜2023年(10年間)、当社検査症例でCNS-FIPを疑う症例は93頭おり、純血種49頭(53%)、Mix cat 44 頭(47%)とやや純血種が多い結果となりました。

 

ちなみに、同じ期間、当社で検査した猫はの総数は8,191頭で、純血種2,872頭(35%)、Mix cat5,319頭(65%)で、純血種はMix catの約半数しかいませんでした。このことを考慮すると、CNS-FIPを疑う症例は純血種の方がかなり多い印象ですね。

次にCNS-FIPを疑った純血種(品種)の内訳です。

なんとマンチカンが21%と最も多く、次いでスコティッシュ・フォールド、ロシアンブルーと続きます。

 

10年ほど前に相馬先生らが報告されている、日本での抗FCoV抗体の保有状況はスコティッシュ・ホールドが最も多いとありましたが、現在はどうなっているのか気になります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は猫コロナウイルス(FCoV)が遺伝子変異を起こした猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が原因で発症する疾患で、滲出型(ウェットタイプ)と非滲出型(ドライタイプ)に大別されます。

 

•滲出型:腹膜炎/胸膜炎や血管炎とそれに伴う腹水/胸水の貯留が特徴。
•非滲出型:多臓器(腎臓/回盲部/腸間膜リンパ節や神経、眼など)に化膿性肉芽腫を形成することが特徴。

 

診断方法は、滲出型の場合、特徴的な臨床症状と腹水や胸水によるFCoV遺伝子検査(感度:80~90%)を行うことが多く、当社に来院されることは少ない印象です。

 

中枢神経に肉芽腫を形成するCNS-FIPでは、脳脊髄液(CSF)による遺伝子検査が有用ですが(感度:約80%)、MRI検査時には頭蓋内圧が高くCSF採取できないことが多いのが難点です。その代わり、2017年にA.H.Crawfordらにより、CNS-FIPの特徴的なMRI画像所見についての報告があり、画像での判断が比較的難しくない疾患です(髄膜/脈絡叢/脳室上衣層の炎症・肉芽腫形成と二次的な脳室拡大)。

 

一方、腹腔内などに肉芽腫を作るような非滲出型の場合、FIP以外に腫瘍性病変や猫消化管好酸球性硬化性繊維増殖症、FIP以外の感染症による肉芽腫病変などを鑑別する必要があります。キャミック城北ではCT検査と同時に、超音波ガイド下細胞診検査を行っており、今回はマンチカンで非滲出型のFIPを経験しましたので、報告したいと思います。

症例紹介

〈症例〉

マンチカン 9ヶ月 雄 2.58kg

<主訴>

・嘔吐/下痢などの消化器症状、食欲廃絶、体重減少

・腹部に触知できる腫瘤病変あり

所見

<CT所見>
・下行結腸〜直腸にかけての壁構造の肥厚(最大厚8.3mm) 【黄矢頭】
・腸間膜領域に不整な塊状の軟部組織性病変【青矢頭】
・肝臓・腎臓・肺野に複数の結節病変【橙矢頭/黄丸】
・胸腔内/腹腔内リンパ節の一部腫大
・微量胸水貯留

 

<FNA(細胞診)>
肝リンパ節・結腸リンパ節・下行結腸の3箇所をFNA
胸水も抜去しFCoV遺伝子検査実施

 

上記検査結果からFIPと診断

細胞診検査のご紹介

キャミック城北では超音波診断装置を導入し、細胞診検査を行なっています。
細胞診の詳細・部位別のおすすめ度については過去のコラム記事をご参照ください。

▽細胞診検査のご紹介

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