医療コラム
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【創業20周年 特別連載コラム〜第5回〜】胸管造影 CT ~リンパ管に立ち向かう~
2026 年始まりましたね。
さて今年は何をしようかな?仕事もプライベートも新しいことを 1 つは始めたいなと思っています。
では早速今年初めのコラム、2020 年を思い出して。
告白すると 2020 年のある報告が出るまで、私は乳び胸から逃げていました。もっと言うとリンパ管から逃げていた気がします。
乳び胸と胸管造影について
少し簡単に乳び胸と胸管造影について
2019 年の猫の胸水分析(306 頭:Alla Königet al. Retrospective analysis of pleural effusion in cats.)と、2025年犬猫の胸水/心嚢水/腹水の液体性状と原因疾患 (犬 269 猫 107 頭:Samantha Sotillo et al. Retrospective Evaluation of the Causes and Fluid Characteristics of Cavitary Effusions in Dogs and Cats) の報告をあわせると、胸水が乳び胸水である割合は犬 3〜5%・猫 5〜7%だそうです。
その中で犬の最も多い原因は特発性(40〜60%)で胸管造影の診断が必要となります。また腫瘍性疾患も10〜20%と心臓疾患の次に多いとされており、CT での診断が重要です。
猫は心疾患が最も多く、次に腫瘍性疾患と特発性が各々20〜30%続きます。

犬猫での胸管造影の歴史は比較的浅く、2006 年に宮崎大学の永延先生らが、実験犬を用いて膝窩リンパ節を触診し経皮的造影剤を投与されたのが、初めての低侵襲な造影法です。当時はレントゲンでの報告でしたが、それまでは開腹して腸間膜リンパ節から造影していた事を考えると、センセーショナルな報告だったであろう事は想像に難くないです。
その後 CT での精査が主流となり、2012〜2020 年に超音波下で膝窩リンパ節から造影剤を投与する報告や、肛門周囲や直腸粘膜下などに注入する方法が報告されました。
当社でも乳び胸精査の問い合わせはあるものの、超音波診断装置がない事と精度、診断の難しさに迷い躊躇しました。
そんな気持ちを払拭したのが、2020 年台湾 Lee 先生らの後肢パットから造影剤を注入する報告です。
“Computed tomographic lymphangiography via intra-metatarsal pad injection is feasible in dogs with chylothorax”
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/vru.12865

低侵襲且つ簡便で成功率が高く、再現性も高い!凄い!やってみたい!リンパ管知りたい!となりまして、色々調べましたが、リンパ管の正常バリエーションや乳び胸の結紮の報告はあるものの、生理的なことや病態があまりわかりませんでした。リンパ管やリンパ節について詳しく知りたくなって、研究生だった栃木県自治医科大学放射線科で教科書を読み漁り、たくさんの症例を見せていただきました。
胸管造影へのトライ
よし、概ね自分の頭の中で整理はついたぞと、2020 年 8 月、スタッフの愛犬の健康診断と共に、上司を捕まえて初めてのトライです(この撮影には少なくとも 3 人必要です)。そこから、また他施設の画像の先生とも何度か検討し、いざ!

リンパ管には弁があって、一方向にしか流れないようになっています。が、正常をみていると、リンパ節や静脈が同時に増強されることが時々見られます。この正常例も前縦隔リンパ節が増強されています。弁の破綻なのか?リンパ管走行のバリエーションなのかはわかりません。しかし、リンパ液がリンパ管やリンパ節、リンパ組織から外に漏れなければ問題ないわけです。
当社で読影した乳び胸症例は 52 件、原因の内訳は以下です。

猫の心疾患が統計より優位に少ないのは、紹介前に診断されているからだと推測します。
また、犬に比べると猫は原因がはっきりしないことが多いです。特発といえば特発に入るのかもしれませんが、中程度のリンパ節腫大がある症例で、細胞診ではっきりとリンパ腫と確定できない、漏出部位が断定できない、胸管造影がうまくいかない(胸部まで増強されない)症例などに遭遇し、未確定や不明としています。
手術成績が犬より悪いのも納得です。
さらに、好発犬種は強い偏りがあります。
世界的な報告では、アフガンハウンドやサルーキー、ボルゾイなど深胸・細長体型の犬種が多いとされていますが、日本では圧倒的に柴犬です。

特に特発性乳び胸に限定すると。
大変なことに。。。21 頭中 15 頭が柴犬です。
オスが多く(10/15 頭)、年齢中央値は 3 歳(1-11 歳)です。

では最後に、特発性乳び胸によるリンパ液漏出の画像をお示しして終ろうかと思います。前大静脈塞栓は血管造影を行わないとわからないので、前胸部に腫瘤形成がなくとも、胸管造影後の血管造影を行うようにしています。
2020 年からリンパ管と知り合いになって、だんだん友達になれて(笑)、今ではとても好きな器官となりました。最近は通常の CT でもリンパ管の判断が慣れてきました。ちなみに MRI でもよく見えるんです。
胸水・腹水が乳びだった時、このコラムを思い出していただけると嬉しいです。
症例紹介
特発性乳び胸
〈症例〉柴犬、2 歳、去勢オス、2 ヶ月前より胸水貯留
前縦隔領域で造影剤が漏出しています。

